Alive
言語は、認知処理を効率化して迅速な意思疎通を可能にする、利便性の高いコミュニケーションツールである。一方、そのセマンティックな解像度の高さゆえに、人間の個体同士の分断を深刻化させる側面を持つ。本作は、ツールの解像度を下げて、「誰かとつながっていたい」という想いのみに焦点を当てた仕組みである。
具体的には、ウェブブラウザを介して自身のマウスカーソルを実空間にワープさせ、そこに集う他の人々とリアルタイムにコミュニケーションできるウェブサイトを構築した。オンラインゲームのように、状況をクライアントで再現する仕組みと異なり、実際の時空を共有できるのが特徴である。
体験者からは、感触に関するフィードバックがあった。部屋を構成する各種部材にマウスカーソルを重ねると、それぞれの感触を得られた気分になったり、他者のマウスカーソルと重なる際、実際に触れ合ったような感覚や、コンフォートゾーンがあったという。また相互作用においても、追従や整列といったミラーリングを促していたことは興味深い。さらに、痕跡を残せる機能を付与したところ、一方の離脱によって残された側が、その痕跡の周囲を彷徨い、惜別を思わせる動きを示したのが印象的であった。
本作で確認された感触は、マウスカーソルという視覚的フィードバックと参加者の相互作用による身体感覚を司る脳機能部位の賦活と考えられ、いわば「触れ合う感覚のDX化」である。運動と痕跡の模倣は、群/種の保存を志向して好意を示し合う、生物の本質的な行動であり、こうした挙動がコンピューターネットワークを通して促進されたことは、作品体験そのものの電子化に重要な認知科学的基盤を提供し得る。
作品サイト
https://alive.salon
※PCから閲覧してください
受賞
東京TDC賞2022 入選
メディア
VOGUE JAPAN
NHKワールド『デザイントークス+』
企画 / 制作
佐々木 遊太
コンセプチュアルワーク
中野 信子
企画協力
佐々木 慶子